トップページ
最新記事一覧
|
|
 |
【明石邦彦のつぶやき】部下を持ったらどのように対応するのか |
2025/12/25 |
|
 |
|
会社組織の中では昇格という時がある。中でも課長になった時が一番うれしい時だと義兄から教えられた。確かに給料の上り幅は大きいし、名刺に管理職の肩書が載ることは自己満足度の高い要件でもある。しかし、マネジメントの勉強をしておかないと足元をすくわれることにもなる。よく言われることであるが、優秀なプレイヤーが優秀なマネジャーにはなれないケースが多くあるということだ。自分流のやり方では部下の信頼や尊敬を得ることができず、組織は大きな成果を得ることはできない。部下の信頼や尊敬を得るためのビジネス書が「部下を持ったらいちばん最初に読む本」(橋本拓也著)だと紹介された。ベストセラーで、帯には「11万部突破」と記されている。
読み進めていくと、なんだか若いころの自分の姿を垣間見た思いだった。研究者として専門のスキルを磨くととともに、ユニットリーダーとしてチームをまとめ、そして成果もあげねばならないことに傾注した日々だったことを思い出した。当時はマネジメントなど勉強することなくて、ただただ新しい知見を発見・開発し、生産現場に導入することに対して喜びを感じながら仕事を展開したものだ。研究補助の方に目的や目標を示しながら実験結果を予測し、熱く語って、モチベーションを上げてもらった。どういうわけか私の部下はイデオロギー論者や組合上がりで理屈っぽい人が部下となった。他の組織では「やっかいもの」という位置づけだったようで組織運営には苦労した思い出がある。予想通りの結果が出たりしたときはお互いに喜び、信頼関係を深めていった。また、成果を盾にして上司に部下の評価を上げてもらうように働きかけたものだ。C評価からB評価に上げてもらうと部下も喜び一入だったように思う。部下の創意工夫に対しては誉め言葉を差し上げたつもりである。研究をやっていただく人には真摯に対応した記憶がある。研究所でのこのような経験が活きたのは九州工場に行ってフェニールアラニン(Phe)の工業化プロセスを立ち上げた時に花開いたように思う。当時はサール社との契約もあり、甘味料アスパルテームの片側のアミノ酸であるPheの生産を早急に立ち上げなくてはいけないことになった。私はプロジェクトの実質のリーダー(係長格)に任じられ、工業化計画を推進する役割を担った。私の性格から旗振り役は似合わないと思っていたが、上司から「チームを鼓舞するために20人の部下とともに、工場内で早朝ランニングをやるべし」という話になり、しょうがないと割り切って先頭を走ることになった。このような団体行動でチームがまとまるのか疑問に思っていたが、声を出し、ランニングすることで次第にチームがまとまっていくという形を見て、「組織とはこのようになるのか」という思いを新たにした。慣れるに従って自らが先頭になってチームを引っ張っていくとは予想できなかった。
さて、工場から集まってきた部下の評価を見ると全員C評価であった。メンバーの評価を見ながら少しは優秀な人を配置しても良いのではと上司に腹を立てたものである。当初は上司からA評価の人たちを集めてあげるとの約束であったが、サール社でのアスパルテームの販売計画が伸びることになった。そのおかげで優秀な人たちは新たなプロジェクトに異動していった結果、残されて人たちが私の手元に残された。割り切って、一人一人と面談し、工場での経歴やどのような性格の持ち主かの情報を聞きながら、チームとしての機能が最大になるように組み合わせを考えたものである。Cの評価を受けている人たちの中には、組織に反抗して評価を下げた人が多くいた。このような人たちは問題意識が高い人と考えて、高い役割期待(Phe生産の技術の中身を理解していただき、新しい技術開発を覚えることで、九州工場現場での技術推進役に育て上げることを目的した)を与えて、リーダー格として動いてくれるようにした。
また、農家の長男(佐賀はコメどころで農家を継ぐため、片手間に工場で働いている)で、のんびりしている人とリーダー格を組み合わせて刺激を与えながら仕事を組み立てていただいた。おかげさまで、チームのまとまりは良く、工業化プラントづくりも順調に進めることができた。斬新な考え方を取り入れてプラントづくりだったので、生産は順調で、予想をはるかに超える生産量を上げた。社長や副社長も工業化のプラントを見学に来られ、大いに面目を施した。その結果、半期で15億円程度の限界利益を生むことになった。その後、技術習得でモチベーションの高まった人たちが、各生産現場に戻り、主要なポストに就くことになった。何人かは中央研究所で学び、技術習得や人脈を広げ、一定期間経過後に佐賀工場の現場に戻った。そして、九州工場の中核の生産職になるとともに、海外工場でグルタミン酸をはじめとしたアミノ酸生産の技術伝道師として活躍するまでになった。また、私は九州工場の生き残りのために新製品導入計画などを立案し、将来のあるべき姿を示して中央研究所に戻った。
この本ではまさにそのような経験を流行りの英語表現でまとめているように思えた。
さて、我が法人ではまとまったマネジメント教育は少ないので、この本でリーダーシップとは何かを学んでもらい、部下とともに成長してほしいものだ。マネジャーとしては重要だが、緊急度は低いこと(将来の方向性)をじっくり考え、将来のあるべき姿を考えてほしいものだ。マネジャーとして大事なことは「何のために」「誰のために」「何故この組織があるのか」を皆に問いかけ、「このためにわれわれはこのような目標に向かう」というようなモチベーションが上がる課題に取り組み、解決を図ってもらいたいものだ。どこにでも自分を成長させる種はあるものなので、じっくり考えて取り組んでもらいたい。浮草のような考え方では大成は難しいものと思ったのが、この本の感想だ。。
|
|