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【明石邦彦のつぶやき】福島の高湯温泉での死亡事故 |
2025/2/26 |
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2月18日の新聞報道で「ホテルの支配人を含めて3人の方が硫化水素中毒で死亡したようだ」と報道された。3人は源泉管理のために山に向かわれたそうだ。源泉からホテルの温泉まで熱い温泉水を送るためにパイプラインが引かれている。そのパイプラインに湯の花が貯まるので、お湯の流れをスムースにするための除去作業が行われる。どこの温泉も必要不可欠な作業である。源泉だから硫黄の匂いがあるとともに硫化水素も噴出していることだろう。硫化水素は空気よりも重いので、窪地にたまりやすい性質を持つ。教科書ではシアンのように毒性を持つことが知られている。特に濃度が高くなると茹で卵のようなにおいを感じなくなり、呼吸がマヒし、意識を失うことになる。匂いを感じなくなったらその場を去ることを考えねばならない。無風状態では外気がかき回されないので、窪地では硫化水素が滞留し、濃度が高くなることが考えられ、今回の事故につながったと考える。冬の湯守の作業は雪の中の作業であり、大変な作業である。源泉作業では硫化水素の事故はつきものであるので、防護対策は必須である。風の具合を気にかけながら防護マスクなどの準備が必要かどうかの判断が求められる。湯守の作業に出かけられた3人の方は少し油断をされたのかなと思った。
私は硫化水素を発生する製造プロセスを工業化した経験を持っている。安全対策に大変注意を払ったものである。私が味の素の九州工場に赴任した時に、中央研究所から新しいCys(システイン)の製造プロセスが導入された。中央研究所の時にその製造プロセスを研究開発していたので、経験者としてコマーシャルベース(CP化)での立ち上げを行った。プロセスは化学物質(名前を忘れました)を菌が持つ酵素で分解し、Cysを製造する方法である。私が研究所で初期に担当した時は、酵素源となる菌はCys分解能が高いので、高濃度の硫化水素が発生した。そのため、少しでも硫化水素の発生を抑えるにはCys分解酵素を弱化させる菌の造成を要望した。要望通りの菌が出来上がったので、CP化した次第である。分解系酵素を弱化させたと言え、分解酵素は存在するので、プロセスで発生する微量の硫化水素を回収しなければ危険である。また、工場近くの近隣に卵の腐った匂いの硫化水素が漏れると工場の異臭対策を問われることになる。そのために酸化鉄を成分とする乾式脱硫装置をプロセスの最後にかませることにした。プラントからの硫化水素放出を完全に抑えることに成功した記憶が浮かび上がってきた。このプロセスには色々なアイディアが活かされたので、この製造法を大変面白く感じたものである。菌の造成から製品化までを農芸化学会の会誌に何報か発表した。その後、代表した担当者が農学博士の栄誉をいただいたので、硫化水素の話を聞くたびに思い出す。
写真:1.温泉の質を維持するには 2.源泉の清掃(管についた湯の花を落とす)
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