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【明石邦彦のつぶやき】標本の維持管理にはお金がかかる! |
2023/12/7 |
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国立科学博物館の維持管理費用不足を捻出するために、クラウドファウンティングが募集され、約5.7万人の人から9.2億円のお金が集まったそうだ。標本保存を含めての維持管理費用が馬鹿にならないことを示すデータである。博物学は今ではあまり目立つ学問ではないが、科学的な興味を育てるための入門編であると考える。このような部門が経営的な危機に陥るのは困ったもんだ。博物館に保管される標本や古文書などは学術的に貴重な品物である。標本などの劣化を防ぐために温度や湿度を管理することが必要だ。東大にある牧野富太郎博士の集めた植物標本も維持管理で大変なようだ。国立科学博物館への募金を最初に聞いた時に私が思ったのは博物館のように科学への探求心を芽生えさせるところに国としてお金を投入すべきであると。世界のトップレベルの研究分野において競争に勝ち抜くために厚く資金を投入するだけでは道を間違えると考える。「選択と集中」だけに大きな予算を配分するのもありだが、そのために一般の科学予算が大幅に割を食うのは避けるべきと考える。私たちは幼いころより昆虫や植物、はたまた化石などを通して自然界を眺めてきた。そして、その興味が進展し、科学者への道を歩んできた人は多いと思う。博物館が、また大事な標本が予算不足で消失することになれば科学を志す人たちが少なくなり、研究分野のすそ野は狭まるばかりだ。蓄積された標本すなわち遺伝子源は宝物と思うので、保守管理に資金投入しなければ色々な学問は継続しないと思う。そういえばどこかの番組で天文観測所の予算も大幅に減らされ、海外との共同研究がままならないと悔やむ研究員がいたのを知るとなんとも嘆かわしいかぎりだ。また、クラウドファウンティングも同じ趣旨で何度も繰り返されると募金額も減少していくことだろう。2度目、3度目になると関心が薄れていくものだ。
そんなことを頭の隅にとどめていたら、床屋さんから朝日新聞(11月11日夕刊)の記事を渡された。そこには九州大学の昆虫学教室の取り組みが紹介されていた。害虫防除を研究している学生達と昆虫標本を管理する蝶の専門家の先生がタッグを組んで、NFT(非代替性トークン)と呼ばれるデジタル技術を使い、昆虫標本で収益を生み出すことを考えているそうだ。私にはNFTの価値はよくわからないが、デジタルアートのNFTには市場価値があるようである。記事の中にはキュウシュウヒメオオクワガタ標本の3Dモデルが提示されていたが、実にリアルで面白みを感じた。標本を色々な角度から拡大できるとあるので、形態学分類をするために面白い道具になるのではと思う。なお、募金に応募された方にはお返しとして3Dモデルの昆虫を配布することを考えているようで、立派な記念品になるのかなと思ったりした。それにしても博物学には標本の種類と数量の充実が必要だ。私が九州大学で60年程前に学んだころ、蝶の分野では白水隆博士が教鞭をとられていた。また、英彦山には昆虫学教室の分室があり、日本の昆虫研究分野では魅力のある所であった。記事にも書かれているようにタイプ標本(新種の基準となる標本)の数も抜きんでていたように思う。しかし、昆虫の分類学では大きな発展が見込めないので、害虫から作物を守るなどのため、生物的防除の研究分野(天敵、微生物など)に重点が移ったように記憶している。九州大学に入学した時に、白水先生の所を訪ねたら、「この世界では霞を食って生きねばならない」と虫で生活を立てることを翻意させられたことを思い出す。
さて、昆虫の標本で困ったことがある。兄が収集したカミキリムシの標本である。亡くなってから7年にもなるがマンションの一室に貯蔵されている夥しい標本の行く先が決まらないことである。兄が亡くなった当時、色々な方に相談した。九大昆虫学教室への寄贈については農学部が伊都キャンパスに移転するので、標本を引き取るスペースがないという話だった。また、北九州にある博物館に寄贈できるのではという話にもなったが、あれからどうなっただろう。姪が九大農学部に知っている先生がいるので、話し合うと言っていたがそれもどうなったことやら。
ある時ペンションすずらんで館長さんの虫仲間が話していたことを小耳にはさんだ。その方は「自分が死んだ後の標本をどうしようか」と考えていると。奥様や子供たちは全く興味がないそうだ。結論として「最後は廃棄物すなわちゴミか」という話になった。ペンションすずらんに寄贈しても分類・整理するのは大変な労力だろう。館長さんの仕事は今では農作業中心だから無理である。私はたいした数を取っていないので、納棺の時に虫と一緒に旅立ちたいと考えている。棺に納め切らなければ、樹木葬(決めたわけでもないが)の時に一緒に埋めてもらうのもいいかなと考える。何時まで続くか趣味の虫。結局はゴミになりそうだ。何ともならないものかな。
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