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【理事長 明石邦彦のつぶやき】語り部の経営者たち |
2022/6/30 |
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日刊ゲンダイのページにどこかで見かけたような人が掲載されていた。大きな顔写真であったので、すぐにサイゼリアの堀埜社長であると認識した。なんでこのようなところに出ているのだろうとして欄を見ると「語り部たちの経営者たち」とある。聞き手は外食ジャーナリスト中村芳平とある。記者が業界の社長にインタビューした記事である。持ち上げた話が多いのだろうが、ちょうどシリーズ3回目の紙面であった。1,2回の記事は読んでいないが、その紙面は彼が味の素に在籍していた最後の時代で、転職を決めた話が掲載されていた。私には懐かしく思える記事である。何故なら転職の話があったときの上司は私であったからだ。正確に覚えていないが、私がバイオプロセス研究所の所長で、彼が発酵研究室の室長であった時の話だ。彼はブラジルでの新工場を立ち上げてからの帰国であった。彼から転職の話を聞かされた時はまさかと思った。しかし、経緯を確認してみるとブラジル工場勤務時代の堀田工場長がサイゼリアの専務に転職され、こちらに来ないかというお誘いである。サイゼリアに入職するとストックオプションも付くそうだ。話を聞いて冷静に考えてみた。彼は研究向きではないし、どちらかというと工場または経営向きと思っていた。彼の将来を考えると味の素ではライバルも多いし、役員になるのも大変だろうと思った。もしも先方が迎えてくれるという気持ちが強いのなら移った方が良いのではと考えた。「堀田さんはあなたを見込んで、推薦するということだから決めたらどうか」と背中を押した。私自身の味の素での将来像が良くわからなかったこともあり、彼の将来がどうなるかも読めないので、ブラジルでの上司がこの人物ならと推薦してくれたなら意気に感じなくては思った次第である。記事によると正垣社長とも会食され、お互いに気に入った仲になったようである。
彼との出会いを考えると印象深いのはブラジルでの工場建設現場でお会いした時である。当時の私は経営企画室に所属し、会社の10年計画(WE―21)をブラジルに説明に行った。彼は若手なのに、韓国系から買い取った工場を味の素スタイルのグルタミン酸生産工場に切り替えようとしていた現場責任者であった。建設工事の真最中で忙しく働いていた。サトウキビから菌を使ってグルタミン酸を作る工場である。原料立地で考えると最もコストが安くなる生産方式となるという思惑もあり、韓国企業から買い取った工場である。後日、私が味の素の発酵技術戦略を考える上で参考にした工場の一つでもある。それから何年か経過し、私が研究所に本社から戻ってきた時に彼もブラジルから帰国し、縁あって、同じ研究所となった。このような関係もあり、相談を受けた時に転職を後押しすることになった次第である。
その後、彼は自分の意思でサイゼリアへの転職を決めた。私も本社の研究企画室に移り、社長命令で日本のバイオ産業界を代表して「日本のバイオテクノロジー戦略作り」を担当することになった。しかし、転職した彼のサイゼリアでの会社生活を聞く機会は何度かあったようである。一度お台場地区のサイゼリア店で会食することになった。彼は相変わらず酒は飲まず、今の会社生活を楽しく話してくれた。彼は酒が飲めないのに川崎では飲み屋をよく知っていることと、人間関係づくりにたけていることは十分承知していたが、以前と変わらず接待上手な奴だなと思った。その時彼の仕事は福島の農家回りのようであった。農家相手に土へのこだわりを話しているようだ。土を触って、まだまだ土壌学的には肥沃さが足りないとか会話しているとのことである。京大農学部出身だから少しは知識があるだろうが、大丈夫かいなと思った。話を聞きながらはったりではと思ったりしたが、元気に生活しているのならまあいいかである。会話の中で正垣社長の兄弟の方に、障害者雇用に熱心な人がいることもお伺いした。食事が終わった時にますます活躍してほしいと願いエールを送り、別れた次第である。記事の内容には味の素からの転職の経時的推移が書かれてあり、他のシリーズも併せて読んでみると非常に興味深いものがあった。社長就任内示の話もそうだったのかと面白く感じた。私の関係した人たちが自分なりの世界を構築してくれることは大変喜ばしい。味の素という会社生活を体験し、その中から何かをつかみ、別の分野で人生を楽しんでいる人は光り輝くものだ。
だんだん記憶もおぼつかなくなってきたので、過去の話を書くたびにどこかに矛盾を生じていないかと懸念する気持ちはあるが、でも何かを伝えなければと思っている。
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