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【理事長 明石邦彦のつぶやき】時代の証言者 |
2019/8/28 |
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大型台風接近に伴い、横殴りの雨になったり、太陽が射したりする終戦記念日に床屋を訪れた。お盆休みのせいであろうか、お客もいなくて、床屋のお兄さんもリラックスされていた。散髪の前に、読売新聞に掲載されていた大隅さんの「時代の証言者」の切り抜きをプレゼントされた。以前に「新聞に掲載され始めましたので、集めておきますよ」と言われたものだ。なんでもシリーズとして30回の連載だったそうだ。途中で、参議院選挙があり、掲載する曜日が不確実で集めるのに苦労されたようだ。床屋さんでは読売新聞の購読がないので、尚更だったろう。彼は町内会で新聞収集の係をしているので、抜き取って、欠けている所を調達されたとのことである。大変なご苦労に感謝して家で読むことにした。大隅さんがノーベル賞を受賞した後、香椎での幼少期の過ごし方などが話題になる。その都度どのような生活環境であったかをお話ししていたこともあり、集めてくれたのである。
さて、大隅さんの記事を拝見すると2-5回が香椎での幼少期、6回が福高時代である。この辺迄はお兄さんもすぐに読めたらしいが、あとは研究生活となり、なじめないとのお話であった。幼少期の記述から田園風景から住宅地へ香椎が変貌していく様子が思い起こされた。香椎が新興住宅として発展したこともあり、香椎中学の先生方や親たちも教育熱心で、福高への進学が急激に伸びていた時代であった。私の時は40名を超える人数が入学した。入学者400名の内、入試TOP10には何人もの同級生がいた記憶がある。大隅さんは中学ではトップだったので、生徒会長であった。歴代の生徒会長は先生方の推薦で、全生徒の投票で選ばれる。私も大隅さんの後を受けて生徒会長を引き受けさせられた経緯がある。
それ以後の編は、研究中心の組み立てである。研究生活では有名な今堀先生、安楽先生と関係があったことやロックフェラー大への留学、岡崎基生研、東工大の話が掲載されていた。特に、ロックフェラー大では博士研究員処遇が約380万円/年と記されている。これくらいの金額でよく生活できたなと思った。やはり研究者の系譜はお金に拘泥しないのではないかと考察する次第である。私にはとてもできない生活であるし、奥様のバイタリティ溢れる行動で互いを支えていらっしゃる姿が見て取れた。
全編を通して感じることは研究者として幸運に恵まれた感謝の言葉がでてくるが、それにましても大隅さん本人の研究者としての矜持が随所に見受けられた。まさに時代の証言にふさわしい登場者のように思えた。
いくつか気に入った文章を掲げてみると以下のようになる。
・良いアイディアが浮かばず、苦しい時代(海外留学)だったが、自分が面白いと思えて、解き明かすことに喜びを感じられる事象に出会うことが大切だと思いました。
・講義においては全員がわかることに重点を置くか、興味を持ってくれる人を対象とするか悩みました。私は後者です。
・生物学の基本は観察です。観察の基本は研究者が観たいと思うものを定めて、工夫を重ねてじっくり取り組むことにあると思います。
・研究室を主宰することは実に大変で、一人で悩んだり、決断を要したりするのですが、個性豊かなメンバーから色々な考え方、やり方を学べる機会でもありました。
・研究には長年継続してきたからこそ材料や情報が蓄積し、解けることがあります。さらに、近年の顕微鏡、分析技術、計算機の技術進歩は目覚ましく、10年前には夢だった実験が可能になってきたことを強く感じます。
・若者の間では役に立つことは何かを考えずに2-3年で応用できて、製品になるというイメージが広がっているように思えますが、本当の科学の成果は2-3年で達成できるものではありません。人間の豊かさは単に経済が成長することではありません。芸術を楽しむのも、スポーツを観戦するのも役に立つことと関係ありません。これが「私が科学は文化の一つだ」という理由です。文化の価値は役に立つという尺度で測られるものではないと思っています。
・研究は試行錯誤の連続で無駄な実験もあります。本質的に失敗はありません。なぜなら、失敗から学ぶことが次の出発点になるからです。
・研究者は浮世離れした孤高のイメージがあるようですが、研究者も一つの職業であり、
多くの人との交わりの中から新しいものが生まれます。だからこそ、一人ひとりの個性、創造性が極めて大切にされなければなりません。
・日本の社会の中では皆と同じであることが大事にされがちですが、科学の世界では人と違うことがとりわけ大切だと思います。
30篇の中から研究者、ならびに人としての大事なところを列挙したつもりだが、中でもどの世界でも同じ(福祉の世界)だなと感じたのは「研究室を主宰する心得」と「研究者も一つの職業であり、多くの交わりから新しいものが生まれる」である。その中に一人ひとりの個性や創造性を大事することと説かれていることだ。
なんだか、明石洋子さんや我々が日ごろ使っている言葉と合致する点が多いなと気が付いた。障害者一人一人の個性が大事にされるとともに支援者には独創性(もの言えない障害者の心を読み取る)が求められていることと同じ意味を持つと思われた。
「科学の世界だけでなく、一人ひとりの個性と多様性を認め合いながら、豊かに生きていける社会であってほしいという思いを、私は伝えたいのです。」
改めて30回の掲載記事をまとめてプレゼントしていただいた床屋のお兄さんに感謝したい。
写真:①大隅先生 ②香椎宮(元官幣大社)
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